FIREを目指して資産を積み上げ、ようやく会社を退職した。ところが、その直後に株式市場が暴落したらどうなるのだろうか。「8,000万円あればFIREできると思っていたのに、退職直後に株価が30%下落した」「暴落しても同じ生活費を取り崩して大丈夫なのか」。これはFIREを考えるうえで無視できない問題である。
結論から言えば、FIRE直後の暴落は資産形成中の暴落より注意が必要である。給与収入がなくなり、資産価格が下落したときにも生活費を取り崩す可能性があるからだ。退職初期の運用成績が資産寿命に影響することを「シーケンス・オブ・リターン・リスク(収益率配列リスク)」という。
私自身もこれまで2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックといった暴落を経験している。暴落は定期的に起こるものであり、FIRE直後の暴落という最悪な状況が起こらないことをただ運任せに祈るのではなく、事前に対策を考えておくことが重要であると考えている。
本記事では、50歳・資産8,000万円でFIREした直後に株式が30%下落する場合を試算する。①対策なし、②暴落年だけ旅行費60万円削減、③50~59歳だけ月5万円の副収入、④副収入と旅行費削減の併用、の4ケースを比較する。
- FIRE直後の暴落が危険な理由
- シーケンス・オブ・リターン・リスクとは?
- 50歳・資産8,000万円でFIREするケース
- 株式30%暴落で8,000万円はどうなる?
- 暴落すると4%だった取り崩し率も上昇する
- 対策なしでも90歳まで資産は残るが、残高は減少する
- 暴落対策① 何もしない
- 暴落対策② 暴落した年だけ旅行費を60万円減らす
- 暴落対策③ 50~59歳だけ月5万円の副収入を得る
- 暴落対策④ 月5万円の副収入+暴落年だけ旅行費60万円削減
- 4つの暴落対策を比較
- なぜFIRE初期の月5万円が効くのか?
- 50歳FIREでは「最初の10年間」をどう乗り切るかが重要
- 4%ルールを固定ルールにしない
- FIRE前に「暴落時ルール」を決めておく
- まとめ|暴落を予測するより、暴落後の行動を決めておく
FIRE直後の暴落が危険な理由
FIRE後の資産運用では平均リターンだけでなく、いつ暴落するかも重要である。退職直後の下落と20年後の下落では、生活費を取り崩すため資産推移が異なり得る。資産形成中なら給与で生活費を賄えるが、FIRE後は「暴落→資産減少→生活費の取り崩し→運用元本の減少」が起こる。
シーケンス・オブ・リターン・リスクとは?
運用リターンが発生する順番によって資産寿命が変わるリスクである。平均リターンが同じでも、退職直後に大きなマイナスが生じ、生活費を取り崩すと、相場が回復しても保有資産が十分に戻らないことがある。
Morningstar:退職初期の暴落と資産寿命について(英語)では、株式だけを保有する試算で、資産が尽きたケースの約70%は退職5年目の終わりまでに資産価値が低下していた。これは同研究の条件に限る結果だが、退職初期の数年間が重要であることを示す。
50歳・資産8,000万円でFIREするケース
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| FIRE開始年齢 | 50歳 |
| FIRE開始資産 | 8,000万円 |
| 株式/債券等 | 50%/50% |
| FIRE直後の株式下落 | ▲30% |
| 初年度生活費 | 320万円 |
| 生活費上昇率 | 年2% |
| 暴落後の運用利回り | 年5% |
| 65歳以降の年金 | 年約155.5万円 |
| シミュレーション期間 | 50~90歳 |
50歳の初めに株式が30%下落し、その年の生活費を取り崩す。51歳以降は各年の年初資産を5%で運用してから生活費を差し引く。生活費は毎年2%増やし、65歳以降は年約155.5万円の年金で取り崩しを減らす。副収入は50~59歳の各年に60万円とする。各年齢の資産額は、その年齢に達した時点の残高である。
「暴落後は毎年5%」は将来予測ではなく4ケースを比較するための単純化である。税金、社会保険料、運用コスト、副収入に伴う負担増、年金の改定は計算していない。現実の必要額はFIRE後の生活費はいくら必要?税金・社会保険まで含めて計算も参照してほしい。
株式30%暴落で8,000万円はどうなる?
開始時の株式4,000万円は30%下落で2,800万円になる。債券等4,000万円は変動しなかったと単純化すると、合計は6,800万円。株式市場が30%下落しても、ポートフォリオ全体では15%の下落となる。初年度の生活費320万円を差し引くと、8,000万円→6,480万円である。
暴落すると4%だった取り崩し率も上昇する
開始時の320万円÷8,000万円は4%だが、株式30%下落後の6,800万円に対しては約4.7%になる。
| 株式下落率 | 暴落後資産 | 320万円の取り崩し率 |
|---|---|---|
| 0% | 8,000万円 | 4.0% |
| ▲20% | 7,200万円 | 約4.4% |
| ▲30% | 6,800万円 | 約4.7% |
| ▲40% | 6,400万円 | 5.0% |
| ▲50% | 6,000万円 | 約5.3% |
生活費が変わらなくても、資産が減れば残高に対する取り崩し率は上昇する。
対策なしでも90歳まで資産は残るが、残高は減少する
暴落後も生活費を減らさず、副収入も得ない。初年度320万円の生活費はその後毎年2%ずつ増え、65歳からの年約155.5万円の年金で取り崩し額を減らす。暴落後のリターンを年5%と仮定した資産推移は次のとおりである。
| 年齢 | 資産額 |
|---|---|
| 50歳 | 8,000万円 |
| 51歳 | 6,480万円 |
| 60歳 | 6,177万円 |
| 65歳 | 5,644万円 |
| 70歳 | 5,591万円 |
| 75歳 | 5,265万円 |
| 80歳 | 4,566万円 |
| 85歳 | 3,359万円 |
| 90歳 | 1,473万円 |
今回の条件では、暴落後に毎年5%で運用できれば90歳時点で約1,473万円が残る。ただし、65歳時点の約5,644万円から残高は減少している。市場が回復することと、自分のFIRE資産が回復することは同じではない。相場の回復を待つ間にも生活費が必要だからだ。
暴落対策① 何もしない
基準となるケースである。暴落しても支出を減らさず、副収入も得ない。90歳まで資産は枯渇せず、90歳時点で約1,473万円が残った。
暴落対策② 暴落した年だけ旅行費を60万円減らす
暴落した初年度だけ旅行や娯楽の支出を60万円減らすと、支出は320万円-60万円=260万円。暴落後の6,800万円から差し引いた残高は6,540万円で、対策なしより60万円多い。
80歳時点では対策なし約4,566万円に対し、60万円節約では約4,813万円。90歳時点ではそれぞれ約1,473万円、約1,875万円となった。1年だけの支出削減でも、残した元本を長く運用できるため差が広がる。
暴落対策③ 50~59歳だけ月5万円の副収入を得る
50~59歳の10年間だけ月5万円、年間60万円を得る。副収入の累計は600万円で、60歳からは副収入をゼロとする。65歳からは年金を受け取る。税・社会保険料の増加は含めない。
| 年齢 | 資産額 |
|---|---|
| 51歳 | 6,540万円 |
| 60歳 | 6,931万円 |
| 65歳 | 6,607万円 |
| 70歳 | 6,820万円 |
| 80歳 | 6,568万円 |
| 90歳 | 4,735万円 |
対策なしでは90歳時点で約1,473万円、このケースでは約4,735万円が残る。ただし、税金や社会保険料などを含めていないため、「90歳まで残る=安全」ではない。
暴落対策④ 月5万円の副収入+暴落年だけ旅行費60万円削減
③の副収入と②の支出削減を組み合わせる。初年度の資産からの取り崩しは320万円-副収入60万円-旅行費60万円=200万円。暴落後6,800万円から取り崩すと6,600万円が残る。59歳まで月5万円の副収入を続け、60歳からはゼロとする。
| 年齢 | 資産額 |
|---|---|
| 51歳 | 6,600万円 |
| 60歳 | 7,025万円 |
| 65歳 | 6,726万円 |
| 70歳 | 6,972万円 |
| 75歳 | 7,028万円 |
| 80歳 | 6,815万円 |
| 85歳 | 6,230万円 |
| 90歳 | 5,137万円 |
今回の4ケースでは最も資産寿命を延ばした。最初の10年間だけ少額の収入を確保し、暴落年だけ裁量支出を減らす柔軟性で結果が変わる。
4つの暴落対策を比較
| ケース | 60歳 | 65歳 | 80歳 | 90歳 | 資産枯渇 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①対策なし | 6,177万円 | 5,644万円 | 4,566万円 | 1,473万円 | 90歳までなし |
| ②暴落年だけ60万円節約 | 6,270万円 | 5,763万円 | 4,813万円 | 1,875万円 | 90歳までなし |
| ③50~59歳だけ月5万円 | 6,931万円 | 6,607万円 | 6,568万円 | 4,735万円 | 90歳までなし |
| ④月5万円×10年+暴落年60万円節約 | 7,025万円 | 6,726万円 | 6,815万円 | 5,137万円 | 90歳までなし |
この条件では1年間の支出削減より、FIRE初期に少額の収入を一定期間確保するほうが資産寿命への影響が大きい。③と④の90歳時点の差は約402万円。ただし年5%のリターン、年2%の生活費上昇などを置いた試算であり、「月5万円稼げば必ず大丈夫」という意味ではない。
なぜFIRE初期の月5万円が効くのか?
年間60万円は開始資産8,000万円の0.75%にすぎない。しかし資産から取り崩さずに残せた金額は、その後も運用できる。最初の10年間に得る600万円の副収入には、取り崩しを減らし、長く運用する元本を残す効果がある。
50歳FIREでは「最初の10年間」をどう乗り切るかが重要
50~59歳は月5万円程度の副収入を得て、60~64歳は副収入ゼロ、65歳以降は公的年金と資産取り崩しで暮らす、という段階的なFIREも考えられる。月5万円や10年間という数字自体に絶対的な意味はない。FIRE初期に暴落した際、収入や支出を調整できる余地を残すことが重要である。
4%ルールを固定ルールにしない
一般的な4%ルールは、初年度に開始資産の4%を取り崩し、その後はインフレに応じて支出額を変える。8,000万円なら初年度320万円。しかし50歳から90歳は40年間で、一般的に想定される30年間より長い。暴落時の支出や収入の調整も考えたい。詳しくはFIRE後の資産はどう取り崩す?4%ルール・定額・定率を比較で解説している。
FIRE前に「暴落時ルール」を決めておく
- 通常時は年間320万円を基準に生活する
- 50~59歳は月5万円程度の副収入を確保する
- 大きな暴落年は旅行・娯楽などの裁量支出を年60万円削減する
- 60歳以降は副収入ゼロに移行する
- 65歳以降は公的年金と資産取り崩しで生活する
暴落してから退職が失敗だったか考えるより、FIRE前に対応を決めておきたい。初期だけ少し働き、市場環境が悪いときに裁量支出を減らせば、暴落への耐性を高められる可能性がある。
まとめ|暴落を予測するより、暴落後の行動を決めておく
50歳・8,000万円でFIREし、株式50%の部分が直後に30%下落すると、全体は6,800万円となる。通常の320万円を取り崩せば8,000万円→6,480万円である。今回の単純化した条件では、65歳以降の年金を年約155.5万円とすると、90歳時点で対策なしは約1,473万円、最初の10年間だけ月5万円の副収入を得ると約4,735万円、暴落年の旅行費60万円削減も組み合わせると約5,137万円が残った。
将来予測ではなく、実際には複数の暴落、税金や社会保険料、変動するリターンと物価も考慮する必要がある。それでも暴落を予測するより、暴落したらどの支出を減らし、初期にどれだけ収入を得るかを事前に決めておくことが、現実的なFIRE計画につながる。
関連記事:FIRE後の生活費はいくら必要?税金・社会保険まで含めて計算/FIRE後の収入源はどうする?月5万円の副収入で必要資産はどれだけ減る?/FIRE後の資産はどう取り崩す?4%ルール・定額・定率を比較
FIREの必要資産や種類、資産形成からFIRE後の生活まで全体像を確認したい方は、以下の入門ガイドも参考にしてほしい。


コメント