FIREを目指すうえで、退職後の生活費とあわせて準備したいのが住民税である。
会社を辞めて給与収入がなくなっても、住民税がすぐにゼロになるわけではない。住民税は前年の所得をもとに計算されるため、退職翌年にも会社員時代の給与に対する税金を支払う必要がある。
本記事のモデルでは、年収700万円・12月末退職の場合、翌年度の住民税は森林環境税込みで約37.5万円となる。さらに、退職時点で当年度の住民税が残っている場合は、その分も別に必要だ。
私自身も50歳前後でのFIREを目指している。退職後の資金計画では、普段の生活費だけでなく、給与がなくなったあとに支払う税金まで見込んでおきたい。
本記事では、退職翌年の住民税が発生する仕組み、具体的な計算例、納付時期、FIRE後の取り崩しや副業との関係を解説する。
※制度は2026年10月確認時点。試算は関東地方の政令指定都市の一例をモデルとし、現行制度が続く前提である。税額や非課税基準、納期限は自治体によって異なるため、関東地方のすべての政令指定都市に共通する試算ではない。森林環境税は国税だが、住民税とあわせて徴収されるため、以下の準備額に含める。
結論|退職翌年度分と当年度の残額を分けて準備する
| 確認する項目 | 本記事のモデル・考え方 |
|---|---|
| 退職翌年度の住民税 | 年収700万円・社会保険料控除105万円で37万4,500円 |
| 退職時点の当年度の残額 | 翌年度分とは別。特別徴収税額通知書と会社で確認 |
| 12月まで天引き済みの場合 | 通常は翌年1~5月に天引き予定だった分が残る |
| 退職翌年の所得がゼロの場合 | 翌々年度の住民税は原則非課税 |
| 副業や投資利益がある場合 | 所得の種類と申告方法で負担・非課税判定が変わる |
「退職時に住民税を一括で払ったから、翌年は請求されない」と考えないことが重要である。
一括払いの対象は、原則としてすでに決まっている当年度の残額だ。退職した年の給与をもとに計算される翌年度分は、別に発生する。
FIRE後も住民税がかかる理由
住民税は、原則として前年1月から12月までの所得をもとに計算され、その年度の1月1日に住んでいる自治体から課税される。
会社員の場合は、年税額を6月から翌年5月までの12回に分けて給与から天引きする。これを「特別徴収」という。
たとえば2026年12月末に退職した場合、住民税の流れは次のようになる。
| 課税年度 | 計算のもとになる所得 | 退職との関係 |
|---|---|---|
| 2026年度 | 2025年の所得 | 退職時点で納付途中の税金 |
| 2027年度 | 2026年の所得 | 退職年の給与に対する税金 |
| 2028年度 | 2027年の所得 | 退職後1年目の所得に対する税金 |
2027年の給与収入がゼロでも、2027年度の住民税は2026年の給与をもとに計算される。
2027年の所得が減った効果が住民税に表れるのは、原則として2028年度からである。
退職後の支出全体を考える際は、関連記事「FIRE後の生活費はいくら必要?税金・社会保険まで含めて計算」も参考にしてほしい。
年収700万円でFIREした場合、翌年度の住民税はいくら?
試算の条件
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 年齢・世帯 | 50歳・独身・扶養親族なし |
| 退職日 | 12月末 |
| 退職年の給与収入 | 賞与を含め700万円 |
| 社会保険料控除 | 年間105万円と仮定 |
| 基礎控除 | 住民税では43万円 |
| その他の控除 | 生命保険料控除、iDeCo、住宅ローン控除、寄附金税額控除などは考慮しない |
| その他の所得 | 株式売却益や副業所得などは含めない |
| 自治体 | 関東地方の政令指定都市の一例をモデルに試算 |
社会保険料控除105万円は、計算例のために置いた仮定であり、年収700万円の人に一律に適用される金額ではない。実際には、源泉徴収票の「社会保険料等の金額」や控除の内訳を確認する必要がある。
計算結果は37万4,500円
給与収入700万円の場合、給与所得は次のように計算する。
700万円×90%-110万円=520万円
この給与所得から、社会保険料控除と住民税の基礎控除を差し引く。
520万円-105万円-43万円=372万円
本記事でモデルとする都市の所得割は市民税8%・県民税2%、合計10%である。このモデルの調整控除は合計2,500円となる。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 課税所得 | 3,720,000円 |
| 市民税所得割:372万円×8%-2,000円 | 295,600円 |
| 県民税所得割:372万円×2%-500円 | 73,900円 |
| 市民税・県民税の均等割 | 4,000円 |
| 森林環境税 | 1,000円 |
| 合計 | 374,500円 |
したがって、本記事のモデルでは、退職翌年度分として約37.5万円を見込むことになる。
社会保険料控除が変わる場合の目安も確認しておこう。他の条件は同じである。
| 社会保険料控除の仮定 | 翌年度の年税額(森林環境税込み) |
|---|---|
| 95万円 | 384,500円 |
| 105万円 | 374,500円 |
| 115万円 | 364,500円 |
FIRE前の準備では、自分の控除額を使って計算し、納税通知書が届いた時点で確定額に置き換えることが大切である。
12月末退職では当年度の残額にも注意
12月の給与まで住民税が天引きされている場合、通常は翌年1~5月に天引きされる予定だった5回分が残る。
前年も同じ給与・控除条件で、当年度の年税額が37万4,500円だったと仮定すると、5回分の残額は約15.6万円である。
ただし、実際の残額は単純な「年税額÷12×5」と完全には一致しない。天引き額の端数配分や、最後の給与で何月分まで徴収されたかによって変わるためだ。
| 準備する税金 | 概算 |
|---|---|
| 当年度の未納残額 | 約15.6万円 |
| 翌年度の年税額 | 約37.5万円 |
| 合計 | 約53.1万円 |
これは退職時点で未払いの住民税を、翌年度分まで含めて確保する例である。翌年1年間だけに必ず53.1万円を払うという意味ではない。翌年度分の第4期は、翌々年1月の納付となる。
当年度の残額を最後の給与などから一括徴収した場合は、その支払いにより手取りが減る。すでに支払った残額を、FIRE後の資金計画でもう一度計上しないようにしたい。
現金の準備については、関連記事「FIRE前に現金はいくら必要?生活防衛資金と暴落対策を考える」で詳しく解説している。
退職後の住民税はいつ、どうやって払う?
退職月によって当年度の残額の扱いが変わる
再就職せず、給与からの特別徴収を継続しない場合、一般的な扱いは次のとおりである。
| 退職時期 | 当年度の未徴収分 |
|---|---|
| 6~12月 | 原則として本人が納付する普通徴収に切り替え。申し出により一括徴収も可能 |
| 1~4月 | 原則として最後の給与・退職手当等から一括徴収 |
| 5月 | 当年度の最後の月分。給与での徴収状況を会社に確認 |
1~4月の退職でも、最後の給与などで残額を徴収できない場合は普通徴収となる。退職前に会社へ「住民税の残額」「最後の給与で徴収する額」「納付書で払う額」を確認しておこう。
翌年度分は原則として年4回の普通徴収
本記事でモデルとする都市の普通徴収の納期限は、原則として6月末・8月末・10月末・翌年1月末である。休日に当たる場合は翌開庁日になる。
37万4,500円を4期で払う場合、1回あたりの目安は約9.4万円だ。各期の正確な金額は納税通知書で確認する。
毎月約3.1万円という年平均額だけを見ていると、納付月の負担を小さく見積もりやすい。必要額を納税用の現金として確保し、納期限に合わせて支払える状態にしておきたい。
なお、退職後に普通徴収へ切り替わる当年度の残額は、残りの納期などに応じて請求される。必ず4回に分かれるわけではない。
FIRE後、所得がなくなれば住民税はゼロになる?
本記事でモデルとする都市では、扶養親族のいない人は、前年の合計所得金額が45万円以下であれば原則として住民税の均等割が非課税となる。所得割にも非課税基準がある。
本記事の単身モデルで、退職翌年に給与・副業・課税対象の投資所得などがなく、預金やNISAの売却資金だけで生活した場合、翌々年度は原則として住民税・森林環境税が非課税となる。
ただし、「給与がない」と「所得がない」は同じではない。
ブログの利益、不動産所得、申告した株式売却益、公的年金などがあれば、その内容に応じて判定する必要がある。
所得がない場合でも、国保の算定や軽減、税証明書の発行のために住民税申告が必要となることがある。自治体の案内を確認しておこう。
NISA・課税口座の取り崩しは住民税にどう影響する?
NISAの売却益は非課税
NISA口座内の対象商品を売却した利益は非課税である。売却して生活費に使ったことだけを理由に、住民税が増えるわけではない。
たとえばNISAから年間300万円を取り崩しても、その300万円を給与のように所得として扱うことはない。
ただし、NISAを先に使い切るかどうかは、その後の運用や課税口座とのバランスも踏まえて考えたい。
関連記事「FIRE後はNISAと課税口座のどちらから取り崩す?出口戦略を考える」では、取り崩し順序を比較している。
課税口座は売却額全体ではなく利益に課税される
課税口座で300万円分を売却し、取得費などを差し引いた利益が100万円の場合、課税対象になるのは原則として100万円である。
上場株式等の譲渡益にかかる住民税の税率は5%だ。源泉徴収ありの特定口座で利益100万円を確定すると、住民税部分として原則5万円が差し引かれる。
源泉徴収ありの特定口座の利益を申告不要とする場合、その所得は住民税の非課税判定や国保の算定に原則として含まれない。ただし、売却時に税金を支払っているため、「住民税が一切かからない」という意味ではない。
確定申告すると国保などに影響する場合がある
損益通算や還付のために特定口座の利益を申告すると、その所得が住民税の非課税判定や国保の算定などに含まれる場合がある。
令和6年度以降は、上場株式等について所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことはできない。「所得税では申告し、住民税では申告不要にする」という従来の方法は使えない。
申告するかどうかは、税金の還付額と国保などへの影響をあわせて確認する必要がある。申告時には、すでに源泉徴収された住民税相当額を控除する仕組みがあり、同じ利益に単純に二重課税されるわけではない。
健康保険の負担は、関連記事「FIRE後の健康保険はどうする?国保・任意継続の保険料を3年間比較」も参考にしてほしい。
副業月5万円でも給与とブログ収益では扱いが違う
同じ月5万円でも、給与収入と事業・雑所得では所得の計算方法が異なる。
他に所得がない単身者を例にすると、次のような違いがある。
| 収入の形 | 年間の例 | 住民税の非課税判定 |
|---|---|---|
| アルバイトなどの給与 | 給与収入60万円 | 給与所得控除の最低額65万円以内で給与所得は0円。原則非課税 |
| ブログなどの売上 | 売上60万円・必要経費15万円 | 所得45万円。本記事の単身モデルでは原則非課税 |
| ブログなどの利益 | 経費差引後の所得60万円 | 45万円を超えるため、原則として均等割などが課税される |
ブログの所得が60万円の場合でも、国民年金や健康保険料の社会保険料控除によって、所得割がゼロになることはある。しかし、所得控除で課税所得がゼロになっても、均等割の非課税基準を満たすとは限らない。
副業の計画では「月にいくら入るか」に加え、「給与なのか、経費を差し引く所得なのか」を確認しておきたい。
退職金の住民税は給与の住民税と分けて考える
一般的な退職手当の住民税は、給与などの所得と区分し、支給時に支払者が計算・徴収する。
退職金を受け取ったからといって、その全額が翌年度の給与に対する住民税の計算に加算されるわけではない。
また、次の2つは別の税金である。
- 退職金そのものにかかる住民税
- 当年度の給与に対する住民税の残額を、退職金から一括徴収するもの
本記事の37万4,500円には、退職金そのものに対する税金は含めていない。FIRE資金に退職金を見込む場合は、額面ではなく税引後の受取額を確認しておこう。
FIRE前に確認しておきたい3つのこと
1.住民税の残額と翌年度分を確認する
特別徴収税額通知書で当年度の年税額と毎月の天引き額を確認する。そのうえで、退職年の給与収入と所得控除を使って翌年度分を試算する。
退職後に支払う国保や国民年金は、支払った年の社会保険料控除になる。退職年の給与に対する翌年度の住民税が、退職後の支払いによってすぐ減るわけではない。
国民年金の納付・免除・追納については、関連記事「FIRE後も国民年金は払うべき?免除・追納も含めて考える」で詳しく解説している。住民税とあわせて、60歳までの年金保険料も退職後の資金計画に織り込んでおきたい。
2.納付資金を現金で確保する
本記事のモデルでは、翌年度分として約37.5万円、当年度の残額がある場合はそれも加えて確保する。
この金額は生活費、健康保険料、国民年金などとは別枠である。すでに支払った分は除き、納期限までに必要な金額を準備しておきたい。
3.退職後の所得と申告方法を整理する
NISA、源泉徴収ありの特定口座、副業給与、ブログ利益などを分け、住民税と国保への影響を確認する。
FIREの全体像は、関連記事「40代から始めるFIRE入門ガイド|必要資産・種類・資産形成・FIRE後まで解説」で整理している。
まとめ|退職翌年度の住民税まで含めてFIRE資金を準備する
FIREで給与収入がなくなっても、前年の給与に対する住民税は残る。
本記事の年収700万円・社会保険料控除105万円のモデルでは、退職翌年度の年税額は森林環境税込みで37万4,500円となった。
12月末退職で当年度の5回分が残っている場合は、その残額も別に準備する。翌年の所得が減った効果が住民税に反映されるのは、原則として翌々年度からである。
FIRE後の取り崩し額を決める前に、退職時点の残額、翌年度の住民税、健康保険料、国民年金を確認したい。支払い時期まで把握しておけば、納税のために予定外の資産売却をする事態を避けやすくなる。


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