FIRE前に現金はいくら必要?生活防衛資金と暴落対策を考える

FIRE

FIREを目指して資産形成を続けていると、「現金をどのくらい残しておけばよいのか」は悩みやすい問題である。

現金を増やせば暴落時の安心感は高まる。

一方、現金を持ちすぎれば株式や債券で運用できる資金が減り、長期的な資産成長では不利になる可能性がある。

では、FIRE前にはいくら現金を持っておけばよいのだろうか。

結論から言えば、筆者は生活防衛資金とは別に、FIRE後1~2年程度の生活費を現金で確保する方法が一つの目安になると考えている。

たとえば年間生活費300万円なら、300万~600万円である。

退職翌年度の住民税も、生活費に加えて現金で準備しておきたい。納付時期と必要な準備額は、「FIRE後の住民税はいくら?退職翌年の税金に注意」で解説している。

本記事では、FIRE前に必要な現金について考えるとともに、8,000万円でFIREした直後に株式が30%暴落したケースを想定し、

現金0.5年・1年・2年・3年分

の4パターンを比較する。


FIRE前に現金が重要になる理由

資産形成期とFIRE後では、現金の役割が大きく変わる。

会社員であれば株価が30%下落しても、給与収入から生活費を払うことができる。

基本的には暴落した株式を生活費のために売る必要はない。

しかし、FIREすると給与収入がなくなり、保有資産そのものが生活費の原資になる。

ここで問題になるのがシーケンス・オブ・リターン・リスクである。

これは、同じ平均リターンだったとしても、FIRE直後に大きなマイナスが発生すると、その後の資産寿命に大きな影響を与える可能性があるという問題である。

FIRE直後の暴落時に株式を売却すると、株価が回復したときに回復の恩恵を受けられる株式そのものが減ってしまう。

そのためFIRE直前では、

「どれだけ資産を増やすか」から「暴落しても安値で資産を売らずに生活できるか」へ

少しずつ考え方を変えていく必要がある。

FIRE直後の暴落が資産に与える影響については、「50歳でFIRE直後に暴落したらどうなる?資産推移をシミュレーション」でも詳しく検証している。


生活防衛資金とFIRE後の生活資金は分けて考える

FIRE前の現金を考えるときは、まず次の2種類を分けて考えたい。

①生活防衛資金

②FIRE後の日常生活に使う現金

である。

生活防衛資金

生活防衛資金とは、病気、家電の故障、住宅関連費、自動車の修理など、予想外の支出に備えるお金である。

これは会社員でもFIRE後でも必要になる。

FIRE後の日常生活に使う現金

もう一つが、FIRE後の日常生活費を賄うための現金である。

年間生活費300万円なら、

確保する期間必要な現金
6か月150万円
1年300万円
2年600万円
3年900万円

となる。

2年分の600万円を持っていれば、単純計算では株式や債券を売却しなくても約2年間生活できる。

もちろん、2年以内に株価が回復する保証はない。

それでも、暴落直後に生活費のために株式を売らなければならない可能性を下げられる。


FIRE前の現金は1~2年分が一つの目安

退職後の資産管理方法として有名なのが「バケット戦略」である。

Morningstar:退職後の資産を用途別に分けるバケット戦略(英語)では、

第1バケット:今後1~2年分の支出 → 現金

第2バケット:その先の支出 → 債券

第3バケット:長期間使わない資産 → 株式

というように、使用時期によって資産を分ける。

この考え方のメリットは、株式市場が暴落しても、直近の生活費を現金から確保できることである。

ただし、「2年分持てば安全」という意味ではない。

必要な現金額は、

  • FIRE後の年間支出
  • 株式と債券の割合
  • 副収入の有無
  • 暴落時に生活費を削減できるか
  • 年金受給までの期間
  • リスク許容度

などによって変わる。

そのため、資産の「○%を現金」と決めるよりも、生活費の何年分を現金で持つかから考えるほうが分かりやすい。

FIRE後の株式・債券・現金の割合については、「FIRE後の資産配分はどうする?株式・債券・現金の割合を考える」で詳しく解説している。


8,000万円でFIREする場合、現金はいくら必要?

ここから実際にシミュレーションしてみる。

今回は50歳で8,000万円を保有してFIREするケースを想定する。

シミュレーション条件

条件は以下のように単純化した。

項目条件
FIRE開始資産8,000万円
年間生活費300万円
株式投資資産の50%
債券投資資産の50%
現金0.5~3年分
FIRE初年度の株式▲30%
2年目の株式+20%
3年目の株式+15%
4~10年目の株式年+5%
債券年+2%
現金0%
取り崩し現金→債券→株式の順

税金や手数料、インフレなどは考慮しない簡易シミュレーションである。

また、現金を増やした分だけ株式・債券への投資額を減らしている。

つまり「現金を別枠で追加する」のではなく、同じ8,000万円の中で現金比率を変えた場合の比較である。


現金0.5年・1年・2年・3年分を比較

年間生活費300万円なので、それぞれの現金額は次のようになる。

ケース現金総資産に占める割合
0.5年分150万円1.9%
1年分300万円3.8%
2年分600万円7.5%
3年分900万円11.3%

そしてFIRE直後に株式が30%下落した場合の資産推移は次のようになった。

経過年数現金0.5年現金1年現金2年現金3年
FIRE開始8,000万円8,000万円8,000万円8,000万円
1年後6,598万円6,622万円6,664万円6,706万円
2年後6,919万円6,934万円6,957万円6,975万円
3年後7,179万円7,187万円7,195万円7,197万円
5年後7,087万円7,090万円7,089万円7,082万円
10年後6,952万円6,941万円6,913万円6,878万円

※万円未満四捨五入。一定の仮定に基づく簡易シミュレーションであり、将来の運用結果を示すものではない。


暴落直後は現金が多いほど強い

注目したいのが1年目である。

FIRE開始時はすべて8,000万円だが、暴落後は、

現金0.5年:6,598万円

現金1年:6,622万円

現金2年:6,664万円

現金3年:6,706万円

となった。

現金3年分のケースは、0.5年分と比較して約108万円多く残っている。

理由は単純である。

現金が多いほど株式への投資額が少なく、初年度の▲30%という暴落の影響を受けにくかったからだ。

このように現金は、FIRE直後の大きな値下がりに対するクッションになる。


しかし10年後は逆転した

ところが興味深いのは10年後である。

現金10年後資産
0.5年分約6,952万円
1年分約6,941万円
2年分約6,913万円
3年分約6,878万円

今度は現金が少なかったケースの資産額が多くなった。

これは暴落後に株式市場が回復し、その後もプラスのリターンが続くという今回の想定では、投資資産を多く保有していたケースほど回復の恩恵を受けたためである。

つまり、

現金が多い → 暴落直後に強い

一方で、

現金が少ない → 市場回復後の資産成長では有利になりやすい

という関係が見えてくる。


現金を増やせばFIREが安全になるとは限らない

今回のシミュレーションで重要なのは、現金3年分が「正解」ということではない。

むしろ、現金を増やすメリットとデメリットの両方が表れている。

現金を多く持つメリット

  • 暴落直後の資産減少を抑えられる
  • 安値で株式を売る必要性を下げられる
  • 数年間の生活費を確保できる
  • 心理的な安心感につながる

現金を多く持つデメリット

  • 株価回復時の恩恵が小さくなる
  • 長期的な期待リターンが低下する
  • インフレによって実質価値が減少する可能性がある

実際、Morningstar:バケット戦略の過去相場での検証(英語)でも、現金を保有することで下落局面への備えになる一方、株式・債券へより多く投資したポートフォリオが長期リターンでは上回った期間も報告されている。

つまり現金の目的は、運用リターンを最大化することではない。

「FIRE直後に相場が暴落しても、生活のために慌てて資産を売らなくて済む状態を作ること」が主な役割である。


債券が十分あれば現金は少なくてもいい?

ここでもう一つ重要になるのが債券である。

FIRE後の資産を、

現金 → 短期の生活資金

債券 → 中期の安定資産

株式 → 長期の成長資産

と役割分担する方法がある。

債券を十分に保有していれば、現金だけで5年、10年分の生活費を確保する必要性は低くなる。

現金がなくなっても、株式市場が低迷している間は債券から取り崩すという選択肢があるからだ。

一方、株式比率が非常に高いポートフォリオなら、ある程度まとまった現金を持つ意味は大きくなる。

したがって、

「現金だけで何年生活できるか」ではなく、「現金+債券で何年間株式を売らずに済むか」

という視点も重要である。

資産全体の配分については、「FIRE後の資産配分はどうする?株式・債券・現金の割合を考える」で詳しく紹介している。


副収入があれば必要な現金は減らせる

FIRE後も少額の収入がある場合、必要な現金はさらに変わる。

年間生活費300万円の場合を考えてみる。

副収入がなければ、2年分の生活費は600万円である。

しかし月5万円の副収入があれば、

月5万円×12か月=年間60万円

の収入になる。

資産から取り崩す金額は、

300万円-60万円=240万円

まで減る。

2年分なら480万円で済む。

このように、現金の必要額は完全FIREなのかサイドFIREなのかによっても変わる。


暴落時は「支出を減らす」という方法もある

暴落対策は現金を増やすことだけではない。

相場が大きく下落した年だけ、

  • 海外旅行を減らす
  • 大型家電の購入を延期する
  • 外食費を減らす
  • 趣味・娯楽費を調整する

といった方法もある。

Vanguard:退職後の支出と資産の取り崩し方(英語)も、相場状況に応じて支出額を一定範囲で調整する「ダイナミック・スペンディング」が、退職後のシーケンスリスクを抑える方法の一つになり得るとしている。

「FIRE直後に暴落したらどうなる?50歳FIREをシミュレーション」では、「暴落年だけ旅行費を60万円減らす」「50~59歳まで月5万円働く」といったケースも比較している。

現金だけで暴落に備えるのではなく、

現金+債券+支出調整+副収入

を組み合わせることで、より柔軟にFIRE後の暴落へ対応できる。


FIRE前に現金を増やすタイミング

では、FIREまで10年以上ある段階から600万円、900万円と現金を積み上げるべきなのだろうか。

必ずしもそうとは限らない。

FIREまで長期間あるなら、現金比率を早くから高めることで運用機会を失う可能性がある。

一つの方法として考えられるのが、FIRE予定日の数年前から徐々に現金を積み上げる方法である。

たとえば、

FIRE3年前から新規投資額の一部を現金へ回す。

ボーナスの一部を現金として残す。

株価が大きく上昇したときのリバランスで現金を確保する。

こうした方法なら、FIRE直前に株式を一度に数百万円売却して現金を作る必要性を減らせる。

特にFIRE直前に株価が暴落していた場合、「FIREするために安値で株式を大量に売る」という事態を避けやすくなる。


私ならFIRE前の現金をどうするか

私の場合、FIRE後も株式と債券を組み合わせて運用する予定である。

そのため、現金だけを3年、5年分と大量に確保するより、

生活防衛資金+FIRE後1~2年程度の生活費

を一つの目安として考えたい。

年間生活費300万円なら、FIRE後の生活資金として300万~600万円程度である。

今回のシミュレーションでも、現金を増やすほど暴落直後の資産減少は小さくなった。

一方、相場回復後まで含めると、現金を多く持つことが必ずしも有利ではなかった。

だからこそ「現金はいくらなら絶対安全か」ではなく、

暴落時に株式を売らずに済む時間をどの程度確保したいか

という視点から決めるのがよいと考えている。


まとめ|現金はリターンではなく「時間」を買う資産

FIRE前の現金は、多ければ多いほどよいわけではない。

現金が少なすぎれば、FIRE直後の暴落時に株式を安値で売却するリスクが高まる。

反対に現金が多すぎれば、長期的な運用効率が低下する可能性がある。

今回の8,000万円のシミュレーションでは、現金を多く持つほど初年度の▲30%暴落には強かった。

しかし、10年間まで見ると現金が少ないケースが逆転した。

つまり現金の役割は、

資産を増やすことではなく、暴落時に株式を売らずに済む時間を確保すること

と考えると分かりやすい。

私なら、生活防衛資金とは別にFIRE後1~2年程度の生活費を一つの目安として検討する。

そのうえで、

現金=短期の生活費

債券=中期の安定資産

株式=長期の成長資産

と役割を分ける。

そして現金だけに頼るのではなく、暴落時の支出削減や副収入も組み合わせる。

FIRE後の資産をどう取り崩すかについては、「FIRE後の資産はどう取り崩す?4%ルール・定額・定率を比較」で解説している。

また、FIRE直後の暴落については「FIRE直後に暴落したらどうなる?50歳FIREをシミュレーション」、株式・債券・現金の資産配分については「FIRE後の資産配分はどうする?株式・債券・現金の割合をシミュレーション」もあわせて参考にしてほしい。

FIREの必要資産や種類、資産形成からFIRE後の生活まで全体像を確認したい方は、以下の入門ガイドも参考にしてほしい。

→ 40代から始めるFIRE入門ガイド|必要資産・種類・資産形成・FIRE後まで解説

コメント

タイトルとURLをコピーしました