FIREをして会社を辞めると、給与から天引きされていた税金や社会保険料を、自分で管理することになる。
その中で悩みやすいのが、国民年金である。
「会社を辞めて収入がなくなっても払うのか」「免除を受けると年金はいくら減るのか」「あとから追納したほうがよいのか」と疑問に思う人もいるだろう。
私自身も50歳前後でのFIREを目指しており、退職後の生活費だけでなく、60歳までの年金保険料をどう確保するかは重要な準備の一つだと考えている。
結論からいうと、日本国内に住む20歳以上60歳未満の人は、FIRE後も原則として国民年金の加入対象になる。保険料の負担が難しい場合は、未納にせず、免除などの手続きを検討することが大切だ。
本記事では、国内に住む50歳・独身の会社員が退職するケースを中心に、納付・免除・追納の違いを整理する。
結論早見表|まず加入区分と免除の条件を確認する
| 状況 | 検討する対応 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 退職後、厚生年金に入らず国内で暮らす | 原則として国民年金第1号への切り替え | 60歳までの保険料を予算化する |
| 所得が少なく納付が難しい | 申請免除を相談する | 本人・配偶者・世帯主の所得が審査対象 |
| 退職直後で前年の給与所得が高い | 失業等による特例を確認する | 離職票などで退職の事実を確認する |
| 免除後に資金の余裕ができた | 追納を検討する | 原則10年以内。加算額や期限に注意 |
| サイドFIREで厚生年金の加入条件を満たす | 勤務先の社会保険に加入する | 国民年金保険料を別に納める形ではない |
免除は、申請して承認される制度である。「無職だから自動的に払わなくてよい」という意味ではない。
FIRE後の国民年金はいくらかかる?
2026年度は月17,920円、年間215,040円
2026年度の国民年金保険料は、月額17,920円である。
毎月納付する場合の年間負担は、次のとおりだ。
17,920円 × 12か月 = 215,040円
生活費とは別に、年間約21.5万円を確保する必要がある。
なお、2027年度の保険料は月額18,290円であり、保険料は年度によって変わる。FIRE計画で現在の金額を使う場合も、将来ずっと同額とは考えないほうがよい。
退職後は加入区分の切り替えが必要になる
会社員の間は、厚生年金に加入することで、国民年金にも加入している。
退職して厚生年金から外れ、第3号被保険者にも該当しない場合は、国民年金第1号被保険者への切り替えが必要になる。手続きの提出期限は原則、退職日の翌日から14日以内である。
たとえば12月31日に退職し、その後も第1号被保険者として暮らすなら、通常は翌年1月分から国民年金保険料を納める。
健康保険を任意継続しても、厚生年金まで継続されるわけではない。健康保険と年金は、それぞれ手続きと負担を確認する必要がある。
健康保険の比較は、FIRE後の健康保険はどうする?国保・任意継続の保険料を3年間比較で解説している。
免除・納付猶予・未納は何が違う?
以下は、所得による申請免除などについての比較である。産前産後免除や育児免除など、年金額への反映が異なる制度とは分けて考える。
| 区分 | 2026年度の月額負担 | その期間の老齢基礎年金への反映 |
|---|---|---|
| 全額納付 | 17,920円 | 全額 |
| 4分の1免除 | 13,440円 | 全額納付の8分の7 |
| 半額免除 | 8,960円 | 全額納付の8分の6 |
| 4分の3免除 | 4,480円 | 全額納付の8分の5 |
| 全額免除 | 0円 | 全額納付の2分の1 |
| 納付猶予 | 0円 | 追納しなければ反映なし |
| 未納 | 未払い | 反映なし |
※免除の反映割合は2009年4月以降の期間。一部免除は、残りの保険料を納付することが前提である。
全額免除と未納は、同じではない。
承認された全額免除期間は年金の受給資格期間に含まれ、老齢基礎年金額にも一定割合が反映される。未納期間は、その扱いにならない。
また、未納は障害基礎年金などの受給にも影響することがある。免除の承認があれば必ず給付されるという意味ではないが、負担が難しいときに放置しないことが重要である。
50歳FIREでは、一般の納付猶予は対象外
一般の納付猶予制度は20歳以上50歳未満が対象である。
したがって、50歳でFIREする人は、「納付猶予を使う」という前提で計画を立てず、納付または免除の条件を確認する必要がある。
FIRE後に免除を受けられる条件は?
基本となるのは、資産残高より審査対象の所得
申請免除では、本人だけでなく、配偶者・世帯主の所得も確認される。
全額免除の所得基準は、原則として次の式で計算される。
(扶養親族等の数 + 1)× 35万円 + 32万円
扶養親族がいない場合、基準は所得67万円以下になる。ただし、これは給与などの「収入額」ではない。障害者・寡婦・ひとり親などは基準も異なる。
FIREでは資産額に目が向きやすいが、免除を判断するときは、資産残高と所得を分けて整理する必要がある。資産が多い、あるいは給与がなくなった、という一つの事情だけで承認・不承認は断定できない。
副業や資産運用による所得がある場合も、審査に使われる所得額を窓口で確認しておきたい。
退職直後は、失業等による特例も確認する
通常の審査では前年所得などが使われるため、退職して現在の収入が減っても、過去の給与所得が影響することがある。
ただし、失業等の事実を確認できる場合には、その人の前年所得にかかわらず審査する特例がある。確認書類には、雇用保険被保険者離職票などがある。
そのため、「前年に年収700万円あったから、退職直後は絶対に免除されない」と決めつける必要はない。
一方、配偶者や世帯主についても所得の確認が必要であり、退職しただけで全員が免除されるわけではない。FIRE目的の退職でも、離職票などを用意して、個別の適用を相談するのが確実である。
免除の審査年度は原則7月から翌年6月であり、失業等の特例による承認では翌年度も申請が必要になる。承認通知に書かれた期間を確認しておきたい。
50歳から10年間、納付する場合と全額免除を比較
ここでは、50歳から60歳までの120か月について、全額納付と全額免除の差を計算する。
計算の前提
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 比較期間 | 50歳から60歳までの120か月 |
| 保険料 | 2026年度の月17,920円を比較用に固定 |
| 老齢基礎年金の満額 | 2026年度の年847,300円を比較用に固定 |
| 受給開始 | 65歳 |
| 免除ケース | 全120か月で全額免除が承認され、追納しないと仮定 |
| 比較対象 | この120か月が生む年金額。過去の加入実績と厚生年金は別 |
※制度の差を理解するための固定額比較である。実際の10年間の支払総額や将来の受給額の予測ではない。前納割引、税金、運用益、物価・年金改定は含めない。
支払額の差は約215万円、年金額の差は年約10.6万円
全額納付した場合の保険料合計は、
17,920円 × 120か月 = 2,150,400円
この120か月が老齢基礎年金に反映される額は、
847,300円 × 120か月 ÷ 480か月 = 年211,825円
全額免除の場合はその2分の1なので、比較結果は次のようになる。
| 項目 | 全額納付 | 全額免除・追納なし |
|---|---|---|
| 比較期間の支払総額 | 2,150,400円 | 0円 |
| この10年間による年金額の反映 | 年約211,825円 | 年約105,913円 |
| 全額納付による年金の上乗せ差 | 年約105,913円 | ― |
約215万円を追加で納めることで、65歳以降の年金が年約10.6万円多くなるという比較になる。
ここで示した金額は、受け取る年金全体ではない。50歳以前の加入実績による老齢基礎年金と、老齢厚生年金は別に加わる。
50歳で退職した場合の年金見込額については、FIRE後の年金はいくらもらえる?50歳で退職した場合をシミュレーションで解説している。納付・免除の前提によって見込額は変わるため、自分の加入記録と合わせて確認してほしい。
単純な回収期間は約20.3年
全額免除との比較で、追加負担を年金の差額で割ると、
2,150,400円 ÷ 105,912.5円 ≒ 20.3年
65歳から受け取り始めるなら、単純計算では85歳過ぎが目安になる。
ただし、これは納付・免除の優劣を決める境界ではない。納付から受給までの時間差、運用機会、税・社会保険料、将来の改定、何歳まで生きるかによって評価は変わる。
また、全額免除を受けられない人が、「85歳までは不利そうだから払わない」と選べるわけではない。
免除した保険料は追納すべき?
原則10年以内に、あとから納められる
免除・納付猶予・学生納付特例の承認を受けた期間は、原則として10年以内なら追納できる。
ただし、期限は月ごとに進む。「60歳になってから10年間分をまとめて考える」と、古い月の期限に間に合わない可能性がある。
免除等を受けた期間の翌年度から数えて3年度目以降の追納には、加算額が上乗せされる。老齢基礎年金を受け取れる人は追納できないため、受給開始との関係も確認が必要だ。
全額免除と学生納付特例では、追納の効果が異なる
2026年度の満額を使うと、1年分を追納した場合の年金増加額は、概算で次のようになる。
| 追納する期間の種類 | 年金増加額の目安 |
|---|---|
| 全額免除の1年分 | 年約10,591円 |
| 納付猶予・学生納付特例の1年分 | 年約21,183円 |
全額免除期間は、すでに2分の1が年金額に反映される。一方、納付猶予・学生納付特例は、追納しなければ年金額に反映されないため、この差が生じる。
過去の学生納付特例については、すでに追納期限を過ぎていることもある。まず加入記録と期限を確認したい。
追納は、手元資金と税負担も含めて判断する
国民年金保険料は社会保険料控除の対象であり、追納した保険料も対象になる。
ただし、「支払額が全額控除される」とは、その全額が税金から戻るという意味ではない。課税される所得を減らす仕組みであり、課税所得がほとんどなければ、節税効果は小さいか、生じないこともある。
追納を判断するときは、次の順序で考えると整理しやすい。
- 生活費と税・社会保険料を払える現金を確保する。
- 追納可能な月と期限、加算額を確認する。
- 追納による年金増加額を確認する。
- その年の課税所得と、追納後に残る資金を確認する。
現金の備えについては、FIRE前に現金はいくら必要?生活防衛資金と暴落対策を考えるも参考にしてほしい。
FIRE計画では「納付を織り込む」が出発点
私はFIRE計画を立てるなら、まず60歳まで保険料を納める予算を確保し、そのうえで退職時の所得や家計に応じて免除を検討する形が、見通しを立てやすいと考えている。
免除を受ける前提で必要資産を小さく見積もると、審査に通らなかった場合に計画が崩れやすいからだ。
一方、退職直後に暴落が重なり、資産の売却を抑える必要があるなど、資金繰りが厳しい局面も考えられる。そうした場合に、条件を満たして免除を利用することは、家計を維持するための選択肢になる。
ただし、免除を使う計画に変えるなら、将来の年金額も合わせて修正する必要がある。支出だけを減らし、年金収入を全額納付時のままにすると、FIREの試算が楽観的になる。
国民年金は原則60歳までの負担であり、65歳以降の年金受給とは開始時期が異なる。50~59歳、60~64歳、65歳以降に分けると、必要な取り崩し額を整理しやすい。
納付するなら、前納や付加年金も確認したい
保険料を納める方針なら、まとめて払う前納によって割引を受けられる場合がある。ただし、FIRE直後は現金が重要なので、割引額だけでなく支払後の残高も確認したい。
また、対象となる第1号被保険者などは、月額400円の付加保険料で年金を上乗せできる。
付加年金の年額は、200円 × 付加保険料を納めた月数である。
たとえば120か月納付すれば、追加負担は48,000円、付加年金は年24,000円となる。通常の65歳受給なら、受給2年で追加負担と同額になる単純計算だ。
ただし、免除中などは加入できず、国民年金基金とも併用できない。付加年金は定額で物価スライドがないため、インフレによる実質価値の低下にも注意したい。
まとめ|未納にせず、今の家計と将来の年金を合わせて考える
FIRE後も、国内に住む20歳以上60歳未満の人は、原則として年金への加入が必要である。
退職後はまず加入区分を確認し、納付する場合は60歳までの負担を生活費に織り込む。納付が難しい場合は、所得による免除や退職時の特例を相談することが大切だ。
全額免除は目先の負担を抑えられる一方、その期間の老齢基礎年金は全額納付より少なくなる。追納で増やせるが、期限と手元資金の確認が欠かせない。
「今いくら払うか」と「65歳以降にいくら受け取るか」を同じ計画の中で考えることが、FIRE後の安心につながる。
参考資料
- 日本年金機構「国民年金保険料」
- 日本年金機構「会社を退職したときの国民年金の手続き」
- 日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」
- 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
- 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
- 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」
- 日本年金機構「付加保険料の納付」
- 国税庁「社会保険料控除」
※本記事は2026年10月時点で確認した制度に基づく一般的な解説である。実際の適用は所得・世帯状況・加入記録等によって異なる。

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